金子静枝, 小川一真

四方の壁を見れば、是ぞ之れ、近世絵画家の尤も尊び模範となすべしといへる曇徴の筆痕なり。 蓋し、曇徴は推古天皇の朝百済国より帰化せしものにて、最勝王経の四方浄土を移し・・・着色にて描きしなり。 惜むらくは、堂内暗くして配色の妙・衣紋の精瞭らかに之を観る事能はず。 然るに希世の物品を撮影せん為め、図書頭に随行の小川一真氏は、ホッケットより一錫線を出し、之に点火すれば、堂内乍まち太陽を現じ光輝赫々、壁画の仏像は衣紋の皺襞、花蓋の小紋、隅から隅まで残る隈なく一見せり。 須臾にして錫線燃焼すれば、小川氏更に一粉薬を出し、板上に置きて之に点火すれば電光一閃、霹靂の声あるが如く、其火光は先の光力に十倍し、視神経の直射して外物を見る事なく、瞬時にして光り消たり。 這両薬は倶に夜間写真を採るの光線にして、麻倶涅臾母の原質に火綿を調和したる粉薬にて、其光力劇しく、秒時間に写真する事を得、鮮明なる事太陽の光線に劣る事なしと。 ・・・銅仏の大なるもの、壁画を動かし難さもの等をも、意の儘に移し得たり。